毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
 私は、口をへの字に曲げた。

 術師が今川義元によって殺されて、私はこっちに戻れないはずだったのに。

 どうして私は戻れたのだろう?

 信長は今頃、どうしているんだろう?

 朝、目覚めて私が居ないってわかったら。心配してくれただろうか?

「で、どうするの? 聖君は知ってるの?」

「言えないよ。それに別れようって思ってるの」

「信長の子がいるから?」

「ううん。たとえいなくても、別れるつもりだったよ」

「もしかして、信長を一生想って生きて行くとか言わないでよ」

「そこまでは言わないよ。信長と約束してるの。自分の世界に戻ったら、信長みたいな人と結婚するって」

 私はにっこり笑うと、ウーロン茶を口にした。

 だからきちんと聖と別れようって思ってる。

 退院してからもう2週間が過ぎるけど、なかなか言い出せない。

 事故に遭う前の聖だったら、簡単に切り出せたはずなのに。

 今の聖は人が変わってしまったみたい。

 心配性で、浮気してた頃とは大違いだ。
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