毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
「儂は何もせん。儂がここに居れば、さきほどのようなことは起きんから。安心して寝ろ」

 信長が腕を組んで、ニヤリと笑った。勝気な瞳が、弓型になった。

 信長の優しい目に、私は頷いて布団に横になった。

 なぜ、私はここにいるのだろう。

 答えなんて出ない問いだけど、答えを知りたいって考えてしまう。

 どうして私が? なんで、戦国時代に?

 日本史の教科書で目にした歴史上の人物が、今、私の隣にいるなんて信じがたい事実だ。

 それに現実かもわからない。でも夢にしては、生々しいくらいに五感に反応がある。

 織田信長。彼は、歴史で勉強した。本能寺の変で、自分の部下である明智光秀に殺されてしまう。

 天下統一を目前にして。

『敵は本能寺にあり』と。

 学校で勉強したときは、部下に裏切られて殺されてしまうような嫌な人間なのかと思ったけれど。

 私が教科書から読みとり、感じた織田信長とは違うみたい。

< 34 / 130 >

この作品をシェア

pagetop