毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
「人前に出るときは、これをかぶっていると良い」

 清州城へと出発する準備をしていた私に、信長がカツラを用意してくれた。

 長い髪のカツラだ。

「お前の髪は、この国で過ごすには短かすぎる。これをかぶって、内掛けを羽織っていれば、好奇な目で見られはしないだろう」

 信長が私の後ろに立つと、かつらをつけてくれた。

 慣れない長い髪に私は、ズンと首に重みを感じた。

「今川軍が撤退するようです」

 私が使っている部屋の障子に二つの影ができると、藤吉郎の丁寧な声が聞こえてきた。

「撤退を選んだか」と信長が呟いた。

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