毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
 私自身、信長を好きかどうかもよくわからない。

「伝われば良い。お前の気持ちは聞かぬ。儂を好きになれとも言わぬ。ただ、お前が元の国へ戻るその日まで、儂がお前だけを愛しておるということだけだ」

 信長が、満面の笑みを顔に浮かべた。

「嬉しいです」と私は返事をすると、下を向いた。

 こんなに私を愛してくれてる人がいる。

 けれど、その人は過去の人で、私の生きて行こうと思っている世界には存在しない人。

 信長が、私の世界に居れば……。迷わず彼の手をとって、抱きしめてもらいたいのに。

 私も、信長の胸に飛び込みたいのに。

 今の私には、信長の愛に応えられない。

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