毬亜【マリア】―信長の寵愛姫―
「信包様と言えども、毬亜様に軽々しくお声をかけられては困ります!」

 女御の小夜さんが、目を吊り上げた。

「俺はいいんだよ。兄上から許可は得ている。それにあいつの警護隊の隊長だぞ、俺は」

「毬亜様に対してい『あいつ』だなんて、どんだけ失礼なんですか! 信長様にご報告いたしますから」

 小夜さんがぷいっとそっぽを向くと、部屋の奥へと入っていく。

 衣替えをするために、内掛けを部屋干ししている最中だったのだ。

 小夜さんは、隣の部屋に行くと、作業の続きを始めた。

「ここは小うるさい女ばっかだな。何でもかんでも兄上に告げ口しやがって」と、信包が文句を零した。

「信長様の人選ですよ」

 私は信包の隣に腰をおろした。

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