彼女は予想の斜め上を行く
職場と言えど、この体制はまずい。

非常にまずい。

バニラだと予測されるイイ香りがするし。

体と体の距離はゼロで、かなり密着してるし。

チラッと見える白い首筋には、赤い印がついてるし。

………ん?赤い印?

「大丈夫だよ?ありがと」

そう言って金本さんは俺から離れ、起き上がった。

理性を掻き回され動揺している俺とは対照的だ。

やっぱり俺なんぞ全く意識されていないんだと実感。

金本さんは立ち上がると、落下した一因である重そうな段ボールを持ち上げようとした。

「工房でいいっすか?」

そう言って俺が段ボールを持ち上げると、斜め上向き女はこちらをまじまじと見てた。

「金本さん?」

「あっ。ありがと。工房でいいよ」

横を歩く彼女の首筋を見る。

それはやっぱり俗に言うキスマークというやつで。

よりによって大事なプレゼン前日に、うっかり発見してしまった自分と確実に犯人であろう完璧な男を恨んだ。
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