彼女は予想の斜め上を行く
一瞬気まずそうな表情を漂わせ、それでも瞬時に隠し葵は笑顔で勇人に声を掛ける。

「お疲れさま。どうしたの?」

一方の勇人はと言うと……。

「……お疲れ様です。これ返しに来ました」

気まずさも隠せない表情とどこか辿々しい口調で、返答した。

返却物入りの段ボール箱を抱え所在無さげに立つ男は、葵とそれ以上に俺の存在を気にしているのが明らかで。

さりげなく目線をこちらに泳がせる仕草をする。

「じゃあ俺そろそろ行くわ」

そう言って工房を後にしようとしたけれど、思い付いたように足を止めUターンした。

不思議そうな顔をして「裕行?」と俺の名を呼ぶ元カノに歩み寄る。

少なからず勇人を恨む俺のイタズラ心と意地の悪さが、多分働いたんだと思う。

俺は葵の耳元で彼女にしか聞こえない小さな声で囁いた。

「《あれ》。今、渡せば?」

耳元からスッと離れると、葵は満面の笑みで答えた。

「そうする」

面白いぐらいに揺さぶられる男の表情に、気付けば維持悪く口角を上げ薄笑いする俺がいて。

改めてまだまだ斜め上向き女に自分はベタ惚れなのだと実感せざる得なかった。
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