彼女は予想の斜め上を行く
「あっ、それから金本のことだけど」

頭の中はごちゃごちゃなのに、惚れた女の名前には素早く反応する。

「なんすか…?」

「あいつは、やめとけ」

先輩が金本さんの彼氏面する意味が、鈍感な俺にはちっともわからなくて。

でも、今ならわかる。

「金本は、勇人の手にはおえないよ」

「じゃあ……」

やっと声を振り絞って、言えた一言。


「先輩だったら…、手におえるんすか?」


完璧でない男は、一瞬驚いたように目を見開く。

だが次の瞬間には、不敵な笑みを浮かべてこう言った。

「どうかな?葵は、予想の斜め上をいくからなぁ」


「じゃあな。お疲れ」

そう言って、あの日の彼女のように走り去っていった。



金本葵の住むアパートへ。


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