pinky


『わかりました。
あたしも言いたいことあるので、都合つけます』



それだけ送ったところで、葵がお風呂から上がってきた。
メールに気づかれるとまずいから、入れ替わりで着替えを取りに行くふりをして部屋で返信を待つ。




『ありがとう。
じゃあ明後日はどう?大丈夫?』



『はい。平気です』



『詳しい時間とかはまた後から連絡するね』





「奏ー?早くお風呂入っちゃいなよー?」



「わかったー」


携帯をベッドに放り投げて、着替えを持って部屋を出た。




熱いシャワーを浴びても、なかなか胸の動悸は収まらない。
日比谷のことで頭がいっぱいで、どうやったらやり返せるかで頭が混乱して。

勝てる自信はなかった。
まったくと言っていいほどに。
葵を守りたいという気持ちだけで、作戦なんてものはまったくもってなくて。





でも、この時あたしはまだ思いもしなかった。
これ以上に最悪な状況がこの数時間後に、待ち受けていることに。




翌朝は早くから雑誌の取材とグラビア撮影があって、早起きしてスタジオ入りすることになってた。


でも、それよりずいぶん早くに、作田からの電話で目が覚めた。



「もしもし・・・?」



『奏!!!大変だよ!!20分後には迎えに行くから支度して待ってて!』



「はっ・・?なんで?」



『いいから早く支度して!まだベッドの中にいるならさっさと出ろ!』



珍しく作田が強気でおしてくるのを感じて、あたしは飛び起きた。葵を起こさないように着替えて、鍵と携帯と財布を持ってマンションの部屋を出ていつものように鍵をかけ、エレベーターで下のロビーに降りたところできっかり20分。


つくづく自分は女じゃないな、と思う。


ドアのガラスに映ったのは、芸能人とはにわかに信じられない姿だった。
すっぴんはいつものことながら。



猛スピードでマンションの前の歩道に横付けしたのは作田の車。
運転席から作田が手招きしているのが見える。
走って車に乗り込むと、作田が慌てた口調で説明した。





「ヤバいんだよ、今朝発売された週刊誌に、お前のスキャンダルが載ってる。写真つきで分かる人にはもう住所がバレてもおかしくないアングルなんだよ!社長から引っ越し命令が出てる。それに、もう葵ちゃんと住むのもダメだ」



「は?あたしスキャンダルなんか・・・」



「起こしてないとでも言いたいの?これ見ても?」



運転席から作田が投げてきたのは、その週刊誌だった。
雑誌はあまり読まないあたしでも、それが有名人のゴシップでは名の知れた雑誌だってことには気が付いた。



ぱらぱらとめくると、あるページに折り目がつけられていて、そこにはマンションの前でキスしてる、葵と自分の姿があった・・。





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