pinky
思ったより明るい声で対応してきた日比谷。
この間電話したときみたいな、落ち着いた声ではなかった。
彼自身どこでスイッチを切り替えてるのかよくわからない。
アイドルグループやりながら、他のメンバーの人たちにはどんな顔を見せているんだろう。
彼のファンは、彼に二つの顔があることを、知っているんだろうか。
日比谷が写真を撮ったのには間違いがなかった。
じゃなきゃこんなにタイミングがいいはずない。
最低な人間だ。
こんなことしてなんになるっていうんだろう?
あたしを丸め込もうとしてるの?
そんな手には引っかからないけど。
7時半に仕事が終わって携帯を開くと日比谷からメールがきていた。
『麻布の会員制のバーがあるから、そこで待ってる。』
メールの続きには、そのバー「pinky」の地図があった。
丁寧だよな、まったく。
それはよく友達の芸能人から名前を聞くバーだった。
会員制だから一般人じゃまず絶対に入ることのできないところだ。
あたしも一度だけ事務所の先輩に連れて行ってもらったことはあるけど、それ以来足を運んではいない。
会員登録もしていなかった。
あたしは電車に乗って、そのバーへ向かった。
作田には行く場所を伝えておいた。
この間の事件から、事務所からの行動制限は厳しくなっていたから。
駅で降りて地図を見ながらその隠れ家的な外装のバーにたどり着いた。
「どちら様ですか?」
ドアを開けると、見慣れない客のあたしに妙によそよそしい態度の店員がたずねてきた。
あたしはサングラスを外す。
「奏です。日比谷隼人に言われて来たんですけど、聞いてないですか?」
「はい。確かに聞いております。こちらです」
さっと態度を変え、親しげな笑顔になった男の店員は、さすが高級バーだけあって洗練された雰囲気があった。
どこかでタレントでもやっていそうな感じだ。
彼の後についてカウンターの一番奥に進むと、隅の席で一人座っている日比谷がいた。
「おつかれ」
あたしに気づいて笑顔で手を振る。
長めの茶色い髪を後ろでひとつに束ねていた。
「お疲れ様です・・・」