一億よりも、一秒よりも。
 *

「あ、うん。そう」
 
私の言葉に、ナユタは目を丸くさせてからそう言った。
窓の外からは微かに潮の匂いがやってくる。スピードに併せて風がゆるゆると流れこんでくる。
カーステレオはビートルズを歌っていた。


「よそ見しないでよ」ハンドルを任せている彼に注意する。
例え真っ直ぐな国道でも、悲劇は唐突にやってくるものだ。
 
たとえば、私の口から。
 

と思ってみたものの、やはりナユタの表情はさして変わらなかった。
つまりそういうことだ。

「そうか。そうだよね。やっぱり」
 
動揺して変なことを口走っている。ようになんて見えない。
いつもと変わらないのんびりした調子で、中途半端に笑いながら音を奏でる。
 
 
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