抹茶な風に誘われて。~番外編集~
「その様子じゃ、告白ぐらいはされたんでしょう」

 ――このオカマ、変なところで鋭いんだから。

 舌打ちしたくなる気持ちを表情に出さず、タバコの煙を深く吸い込む。ニコチンやらタールやら、とにかく体に悪い成分を浸透させると、反比例して心は落ち着いた。

「やっぱり!」

「隠さなくたっていいわよお、香織姉さん!」

 と再び沸くオカマちゃんたちをひと睨みして、あたしは日本茶をすすった。

「隠してなんかないって。告白なんてされるわけないでしょ? ハナコさんったら妄想激しいんだから」

「――ふうん、そうなの」

 もっとあれこれつっこんでくるかと身構えていたのに、意外にあっさり引かれて驚く。その一瞬の動揺をごまかすべく、あたしはバッグの中のチョコレートをテーブルにばらまいた。

「はい、義理だけどみんなに。どうせみんな甘い物好きでしょ?」

 大柄、細身、年増――それはそれはバラエティに富んだ乙女たちは、途端に好みのチョコを選ぶべく群がる。この店でも客に義理チョコはあげたはずだけど、やっぱり自分用にもらうのは別らしい。

 うまくごまかせたと安心しかけたあたしを、ハナコさんがちらりと見て笑ったことにその時は気づかず、いつものバカ騒ぎに突入して――夜通し続いたそれの途中で、あたしは珍しく根を上げてしまったのだった。



「うー……頭いた」

 目覚めたらシンプルな家具だけが置かれた清潔な部屋にいた。皺くちゃに寝乱れた布団の上で身じろぎする。

閉まったカーテンの隙間から日の光が差し込んできて、はめたままの腕時計に反射する。時刻は、午前十一時――。

 シフトで休みが取れてたからよかったとはいえ、さすがに飲みすぎたか――と顔をゆがめて、痛む頭を押さえながら起き上がったあたしは、そこがハナコさんの部屋でもその他のお姉さんたちの部屋でもないことに気づく。もちろん、乱雑な自分のワンルームでもないことはあきらかで。

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