抹茶な風に誘われて。~番外編集~
 今年のバレンタインは、あれで十分。じゃあ、来年のバレンタインは――?

 こんなあたしでももう一度夢を見てもいいんだろうか。平凡で真面目ぐらいしか取り得のないヘタレ君の隣で――笑っていてもいいんだろうか。

 目を閉じて、思い出したのは寂しすぎる過去の記憶。優しい家族なんてあたしには手の届かない夢で――だから、全部捨ててきた。

 捨てたはずの相手を心底から愛してたことに気づいた時には、もう遅かった。あんな思いは、もう二度としたくないから。

「タバコ……減らそっかな」

 ふと口にした独り言に思わず頬を染めて、あたしはコンビ二に入った。自動ドアの音が軽やかに鳴る。

「いらっしゃいませー」

 無造作にこちらを向いた店員の目が、あたしの素足に向けられる。

「メンソールスリム――あ、やっぱ、一ミリのほうで」

 ほんの少しだけ、少しずつから始めてみるか。誰も知らないあたしの決意は、愛想のカケラもない店員につたわるはずもなくて。

 コンビ二を出たあたしは、くすくす笑いながら歩き出す。飛び込んだデパートで買った新しいヒールは、どこかのあいつの瞳と同じ。そして地味で退屈な王子様を思い出させる色だった。



 Fin.
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