Black Coffee.





「 じゃあ、そろそろ行くね 」


「 うん、今度もっと詳しく
  聞かせてね? 」





結局珈琲は飲めなかった。
ただマドラーで掻き回しながら
眺めているだけで、なんだか落ち着いて、
大嫌いだった珈琲が少しだけ、
・・・少しだけ、好きになれた気がした。





「 あ、菜緒ちゃん 」





会計を済ませて喫茶店を出る。
あたしは楓くんの居る喫茶店の方へと
足を向けて、紗希は逆方向へと向かって
少し歩いて振り返った。





「 菜緒ちゃんは少し恋愛に対して
  消極的、っていうか、怖がりだから 」


「 ・・・うん? 」


「 怖くなったら、戻れないところまで
  行っておいでね 」





恋愛は、珈琲と一緒で苦手だった。
苦くて、飲み込めなくて、
自然と裂けてしまうもの。






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