世界で一番大切なもの
伊東くんの手の上からまた力が加わるのが分かる。



「葵の手、放せ」



「誰?あんた」



「関係ねぇだろ」



「あるよ、葵ちゃんが泣いてる」



そう言われて、初めてあたしは自分が泣いてることに気付いた。



「…いいから、放せ」



「だからっ…」



「伊東くん…」



あたしは、そっと2人の手の上に手を重ねる。



「ありがとう、伊東くん…」



「葵ちゃん」



「でも、大丈夫だから…」



大丈夫、あたしがもう一度そう言うと



2人の手の力が抜けて



スルッとほどけた。



「葵」



耳に届いたのは、



愛しい人が呼ぶあたしの名前。



あたしはゆっくりと体を反転させた。
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