世界で一番大切なもの
「本当。天下の橘桔平が情けないね」
「…笑ってんなよ」
おかしそうに笑う京介をムッとして睨む。
「わざわざ俺んとこ来なくても、決めてるんでしょ?
ヨーロッパ行きの時と同じように」
「…まあな」
拳をギュッと握り締める。
決めてんだ。
だからヨーロッパに行った。
だから、帰ってきた。
俺は立ち上がって向かいのソファーに戻る。
「最初から葵に選ぶ権利なんかねーんだよ」
「可哀相、葵」
京介の呆れたような目が俺を見る。
俺はソファーに深く身をしずめて、京介を見る。
「ただ、『京ちゃんが好きなの』ってあれ…、あながち嘘じゃねー気がしてムカついた」
「なにそれ」
「葵が一番信頼してるのはお前だから」
俺がそう言うと京介は、嬉しそうな、寂しそうな複雑な顔をして
失敗したかな、と一瞬思った。
だけどこれは、俺も京介も分かってる事実で、
それが俺にとっても、京介にとっても辛いことだとしても
理解しなくちゃいけない事実なんだ。