世界で一番大切なもの
屋上のドアを開けると、眩しい日差しに目が眩む。



「あっつ…」



季節はもう夏。



ジメジメとした湿気も手伝い、蒸し暑い毎日。



あたしは扉の裏側に回ると、背を壁に預けてその場に座った。



影に座っていても、暑い。



この暑さ、暑いの苦手な京ちゃんキレてるかも。



フッと零れる笑みも、ここに来る前の京ちゃんの顔を思い出して消える。



何かいいたげな顔。



この2年間、何回も見てきた表情。



京ちゃんが浮かべるのは、いつも決まって桔平の話のとき。



何が言いたいのか…本当は分かってる。



あたしが分かってるってこと、京ちゃんだって分かってる。



だから、何も言わないんだ。



“逃げたって何もならない”



京ちゃんが言いたいこと。



2年前、桔平の見送りに行かなかったあたしに言ったこと。
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