英国喜劇リコレクション
「ねぇ、なんて読むな?」
下の名前でいいからさ
「江利香……」
「ん?」
耳元に顔を埋めながら、もう一度聞き返す。
聞こえていないわけはないけれど。
「エリカ、です…」
慣れないことをされて、語尾がフェードアウト。
そんなエリカを前に、エルヴィスは端正な顔でクスリと笑った。
「可愛いのな。名前も、貴女自身も…」
飾ったセリフも、あまりに自然に入ってくる。
つ、と白く細い指でエリカの唇をなぞる。
指……冷たい。
ぼんやり、そんなことを思う。
その唇が突然、温度のあるもので塞がれた。
「!?」
理解が追い付かない。
「〜〜、!」
刹那、触れるだけ、それでも甘く甘く濃い口づけであると気付いた時には既に離れて、整った色白の顔が目の前にあった。
「え、えっと、あの、」
言葉が出せなくて、語彙が一気に失せてしまった。
エルヴィスがもう一度、顔を近づけてきた時――
「きっさまは、初対面の人に何やってんだ!!」
ボカリ
「あっで!」
ちょっと顔を赤らめたジュダスがエルヴィスを抑え叫んだ。
「そこの人、今のうちに逃げろ!」
「は、はい! ありがとうございました!」
何に対してだろう。
思いながら廊下の角を曲がるとき、エルヴィスが部屋に戻る姿がチラリと入った。
――しばらく忘れなさそう。
彼女は、本来の業務へと帰っていった。