英国喜劇リコレクション
──アイリーン・ランドルフ様
王位を継いで現在のこの国を統べるジュダス様の奥方にして、毅然として高貴な方。
ほかに三人いる王子の中で婚姻の話が出ているのは私たちだけなのを思ってか、私を気にかけてくださる優しいお方。
彼女の私室につき、従女がノックをするとアイリーン様自らが扉を開けた。
「ごめんなさい、ちょっと待ってね?」
ドアの隙間から頭だけをだして、勢いよく右、左と外を確認してから、警戒を解かない様子で囁いた。
「急いで入って頂戴」
言われた通り、まるで何かに隠れるようにドアの隙間から身を滑り込ませると、アイリーン様はもう一度外をにらんでから音を立てて閉めた。
「アイリーン様…」
「変なことしてごめんなさいね?」
「いえ…ですが、なぜでしょう?」
未だ驚いてポカンとしてしまう私を従女を見て、アイリーン様は外に目をやる。
その首の動きとともに、豊かな長い黒髪が揺れる。
「わからないの。でも、とてつもない胸騒ぎがするの。それに…」
「?」
「情けない話だけれどね、ジュダスが一向にかまってくれないの。どうしてか部屋に閉じこもっているのよ…。立ち話もなんたわ、座って頂戴なカレン」