茜色の葉書
 と、いうことで彼女のお願いもあって、取り敢えず人通りのほとんどない朝の海岸線に移動――けっこう恥ずかしかったらしい――。

 そこで地図を調べる。

 目的地は歩いて行けない距離じゃないみたいだ。

「さて、じゃぁ行こうか」

「うん。でもその前に」

「どうかした?」

「いい景色だと思わない?」

 腰くらいの高さの防波堤にひじをついて弓華は海を何か感慨深げに眺めている。

 朝もやが薄れ、朝焼けと朝陽とがまるで潮の満ち引きのように、寄せては返していた。

 海のその身は一刻、また一刻と微妙に色を変え、囁くような声音は永きに渡る追憶の日々の想いを馳せるかのよう。

「不思議よね……海も、空も、その土地々々によっていろんな顔を持っているけれど」

「そこにあるのは、やっぱり海と空。どんなにそこに違いを見つけようとしても……」

 ハッ、として彼女が僕を振り返る。

 僕は、いま……何を……?

「この、景色のせいかしら……」

 一瞬の心の共鳴。

 次の言葉が自然と口をついて出てくる。

 わかる……その言葉の続きが。

「行こうか」

 けれど僕はその続きを口にすることはできなかった。口にしようとした瞬間、脳裏に昨日の彼女の寂しげな姿がよぎったから。

――彼女を、京介さんに逢わせなきゃ。

 その考えが、僕を思いとどまらせていた。

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