-Vermillion-

-AVRIL 25 (Mer)-
 翌朝早く起きると加奈を見た。まだぐっすりと眠っている。
 私は書置きを残して、
 加奈のお母さんに挨拶すると、学校に行く前に家に寄った。

 昨晩真朱から連絡が無かったのが、少し気になったのだ。
 恐る恐る玄関のドアを開けた途端、リビングからいい匂いが漂ってきた。
「お、朱乃おかえり。」

 笑顔で迎える真朱に、言い表せない罪悪感を覚えた。
「ただいま…」
「フレンチトースト、食べてくか?」

 私はテーブルに着きながら、
 キッチンでコーヒーを入れる真朱の背中を振り返った。
 きっとすごく心配したはずなのに――

 真朱が私に何かを押し通した事は一度も無い。
 兄妹喧嘩なんて以ての外だ。
 私達は今まで一度も争う事なく過ごしてきた。

(最近余山市内で、大型の烏アゲハが大量繁殖している様です。
 ご覧下さい!街の至る所に蝶が!
 これは一体どういう事なのでしょうか。専門家は異常気象による――)
 
「ほら、温かい内に食べろよ?」
「昨日は、御免なさい…」
「うん……滅茶苦茶心配した。」
「叱らないの…?」
「大丈夫、叱ったりしないよ。叱って欲しいのか?」
 
 私は答えなかった。いや答えられなかった。
 急いで食べ終えて、学校へ向かう。
 それ以上真朱と話していると、何もかも言ってしまいたくなるから。

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