state of LOVE
そんなメーシーの後を追おうと、美緒が再び暴れ始める。黙って従う方が被害が少ないと踏んだ俺は、ハルさんと同じくちょんと美緒を床へ下ろすと、リビングの扉を開くために席を立った。

「よし、行け」
「じー!」

やはり効果音付きで嬉しそうに駆ける美緒は、俺の記憶が正しければ隣家の娘で。まかり間違っても俺達の娘ではない。そして日曜の昼下がりを連想させるこの光景は、土曜の朝で。チラリと時計を見上げ、まだ8時にもなっていない時刻だと確認してふぅっと大きく息を吐く。

「子供がいる家って、皆こうなんですかね?」
「どやろなぁ。うちの娘は極端に大人しい子やったからな。その代わり、千彩が毎日あんなんやったわ」
「あー…ぽいですね。反面教師ってやつですよ」
「別にあのまま育ってくれても良かったのに」

おそらく、聖奈の育て方を間違えたと言いたいのだろう。キッチンに立つ聖奈に視線を向けるハルさんの横顔は、何だかとても悲しげだった。

「俺はそっくりだと思いますけどね。セナとちーちゃん」
「そうか?」
「じゃなきゃ、俺はセナと結婚しようとは思ってないです」

だからって、ちーちゃんをどうとか考えてるわけじゃないですよ。と保身のための言葉を付け足し、孫娘を足にくっ付けて戻ってきたじーちゃんから洗濯物を受け取った。

「俺が干すよ」
「あぁ、ありがとう」
「ってことでよろしく、じーちゃん」
「誰がじーちゃんだよ」
「じー!」
「違うよ。じーちゃんはあっち」
「美緒ちゃーん。じーちゃんやでぇ」

洗濯物を抱えて階段を上がりながら、ハルさんのロリコン加減を心底心配した。美緒がもし「ちゃん」ではなく「君」だったとしても、あそこまで鼻の下を伸ばしただろうか。義理の息子になる予定なだけの俺には、そこまでのことはわからない。けれど、聖奈の複雑そうな表情から見て、自分の娘にはそうでなかったことは窺える。

「大丈夫かな、うちの家」

あの光景を見ていると、子供が産まれたら産まれたでとんでもないことになることは目に見えて分かる。だからと言って譲る気の無い俺は、きっと聖奈を丸めこんで子供を作るのだろうけれど、その後はメーシーもびっくりな嫁バカ且つ親バカにならざるを得ないのだろう。二重責務は辛い…と、自室の窓を開けてバルコニーに出る。

「さみー。もう冬だな」

クリスマスまであとひと月と迫った今、朝の寒さは必須で。NYほどではないものの、日本の寒さも結構身に凍みる。

けれど、妹と違って冬生まれで寒さに強い俺は、迫り来る冬の足音を歓迎するようにパンッと洗濯物を広げて家事に取りかかった。
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