state of LOVE
「お前はこっち。ほら、これ着て」
「だー」
「おっ。見てみろ、美緒。うさぎだぞ」

美緒に着せるために広げたポンチョのフードには、うさぎの耳が取り付けてある。ちょうどお尻にくるだろう部分には丸い尻尾らしきものがあり、色がベージュなだけにまるっきりうさぎだった。

「黒にしなかったとこがお前らしいな」
「おぉっ。これ着たら全然イメージちゃうやん。さすがベッキー」
「そんなに褒めても何も出ないデスヨ」
「やっぱりお前をモデルにするのはもったいない。前言撤回だ」
「忙しい男デスネー」

ポンチョを着れば可愛らしく、脱げばカッコ良く。そんなイメージだろうか。

どの生地を使うかだけを伝えただけでここまでイメージするのだ。こんな有能なデザイナーをパートナーの俺が手放すはずがない。

「お前がモデルになったら、レイの服は誰がデザインすんだ?」
「それもそうだ」
「ってわけで、ちゃんと仕事しながら留守番してろ」
「OK.お土産はシホのチーズケーキね」
「おぉ」

いってらっしゃーいと手を振るレベッカを真似、俺の腕に抱かれた美緒も力一杯手を振る。

その手がバシバシと俺の肩に当たっているのは…許容範囲内だということにしよう。


「愛斗、お前さぁ…」


階段で立ち止まったハルさんが、俺を見上げて眉根を寄せる。メーシーとは違って何も疾しいは無い俺は、美緒を抱いたまま堂々とハルさんと視線を合わせた。

「セナといつ籍入れるんや?」
「あー…もう少し待ってください」
「レベッカか?」
「違いますよ。メーシーと一緒にしないでください」

あらぬ疑いをかけられるのはもう慣れたとは言え、俺にも俺の考えというものがある。それを伝えないのが元凶だとはわかっているのだけれど、ある程度形になってから伝えたいというのが俺の思いだ。是非ともそこは汲んでいただきたい。

「ちゃんと考えてます」
「まぁ…それならええんやけど」
「ちゃんと考えてますし、約束も守ります。だからもう少し形を作らせてください」
「何かわからんけど…まっ、メーシーの息子やから心配要らんわな」
「そこはもう少し心配してください」

微妙な表情をするハルさんは、紛うことなく娘を愛する父親だ。

その愛情を疑うとはとんだ娘だよ。と、今朝の苛立ちが蒸し返される気がして。ギュッと美緒を抱く力を強め、ハルさんの後を追いながら目的地へと足を進めた。
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