state of LOVE
聖奈の安全を確保して落ち着いた俺に、足元で遣り合う二人の間からひょこっと顔を覗かせたちーちゃんの間延びした声が届く。いつ聞いても心地良い、鼻にかかった甘い声。俺はこれが好きだ。

「ねー、マナ」
「んー?」
「みおちゃんって何歳?」
「んー。わかんない。たぶん二歳になってないくらい」
「誰の子供?」
「お隣さん」
「パパとママは?」
「今留守みたい」
「おらんの?」
「今はね」

俺の言葉に、ちーちゃんの表情が曇る。それに慌てたのは、勿論娘にまで「極度のちーちゃんバカ」と呆れられるハルさんだ。

「心配すんな」
「でも…」
「大丈夫や。千彩が心配することやない」

この夫婦のやり取りが何を意味するのか、三木家ではなく佐野家で生まれ育った俺には残念ながらわからなかった。

「どしたの?ちーちゃん」

だから、敢えて聞いてみる。ちょっとした興味だった。

「みおちゃん、ママに置いて行かれたん?」
「んー…どうだろ」

泣き出しそうなちーちゃんを前に、「そうだよ」とは言えなくて。メーシーから余すことなくドSを継承した俺でも、さすがにちーちゃんを泣かせることだけはしたくない。そこまでいくと、人間ではないと自分で宣言しなければならなくなるだろうから。

「ママに置いて行かれたから、マナとセナの家族になるん?」
「んー…」
「マナ」
「ん?」
「ちーちゃんを泣かせたら、殴られるだけじゃ済みませんよ」
「ん…あぁ。そだな」

声をかけてきたのは腕の中で俺を見上げる聖奈だけれど、突き刺さる視線はメーシーのもので。どう切り抜けようか思案する俺に助け舟を出してくれたのは、意外なことにハルさんだった。

「今おらんだけや。すぐ帰ってくるわ」
「そうなん?」
「おぉ」
「じゃあ、今だけマナとセナの家族?」
「せや」
「もし帰ってこんかったら?」
「そん時は…」

ゆっくりとちーちゃんの頭を抱き寄せ、頬を寄せるハルさん。まさに幸せな夫婦の図。俺と聖奈も、こんな夫婦になれれば良いのに。

まぁ、俺がこんなな以上遠い夢の話だろうけれど。

「俺らの家族になったらええ。やろ?」
「うん!」

あ、拾った。と、思わず口から滑り出してしまった。
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