state of LOVE
「ん?」
「あー…えっと」
「何や、愛斗」
「いやー…大丈夫っすよ。その時は俺とセナで美緒のこと育てますんで」
「学生のお前が?」
「はい。学生ながらそちらのチームで散々こき使われて、いっそのこと就職した方が話が早いんじゃないかと思っている俺が」
「まぁ…好きにせぇや」

渋々納得したのは、夏休み期間中の俺の給料明細を覗き見したからだろう。嫁と子供一人くらいならば、十分に養っていける。それくらいはもらった気がする。

「ガキ引き取る前に結婚せぇや」
「あー…拘りますね、そこ」
「そりゃそうやろ。そこんとこハッキリさせてもらおか。千彩の前で」

あぁ、これは死刑宣告か何かだろうか。そう思えるほどに、ハルさんの目は鋭く光っていて。同じく嫌な光を宿したメーシーの目と、キラキラと期待に満ちたちーちゃんの目。

俺が負けたのは、言うまでもなくちーちゃんの目だった。

「卒業前の短期留学あるじゃないですか」
「おぉ。そんなん言うてたな」
「俺、あれ行きたいんですよ」
「行ったええがな」

でも…と続け、聖奈を抱く腕に力を込める。どうかわかってほしい。そんな思いを込めて。

「結婚するなら、学生じゃなくて社会人であるべきだと思うんです」
「ええ心がけやけど、別にそんなん気にせんでもええんちゃうか?と、俺は思うけど。実際、一般企業の新入社員の給料くらいもろてるやろ」
「でも、生活費もらってます。それに家賃も」
「それは俺らが勝手にしとることやがな」

そうなんだけど。と一度小さく頷き、それでも俺は首を横に振った。

「自立したいんです」
「ほな、全部お前が出す?」
「そうゆうのじゃなくて」

わかっているくせに、この人もこの人で意地が悪い。どうして俺の周りには、こう…どこか歪んだ人しかいないのだろう。この人達を見ていると、時々自分が真っ直ぐと素直に育ったように思えてくるくらいだ。

まぁ、ただの幻想だろうけど。

「一応任せてもらってますけど、やっぱベッキーが手助けしてくれなきゃモノになんないですし」
「おぉ」
「このまま就職してもそれはそれでいいんですけど、何か違うって言うか…」
「ふぅん」
「あー…もう。俺、ハルさんやメーシーみたいになりたいんです。胸張って「俺がここのナンバーワンだ」って言えるように」
「やっぱりマナは俺みたいになりたいんだね」

それはそれは嬉しそうなメーシーの笑顔に、俺はただただ眉根を寄せて口を一文字に結んだ。所謂「しかめっ面」というやつだ。今この場に相応しい表情を俺は他に知らない。
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