state of LOVE
「何をやってるんですか」
「お話デース」
「そうは見えませんが」
「俺はそのつもりデース」

レベッカを真似て場の空気を重くしないように努めたとて、聖奈の目はジトリと相手を睨みつけていて。何もしていないと主張すべく両手を挙げてみたとて、効力はなさそうだった。

これはどうしたものか…と眉根を寄せ、ふと美緒の姿が無いことに気付く。

「おい、美緒は?」
「車に置いてきました」
「バカ!せめて連れて来い!あぶねーだろ」
「…わかりました」

渋々引き返す聖奈の背を見送りながら、グッと甘ったるい香りを漂わせる人を引き離す。そして、再び笑顔を作った。

「すみません。あの通り妻が嫉妬深くて。お相手は出来ないかと思います」
「そぉ。残念」
「教えていただけませんか?その男性のこと」
「いいけどぉ…」
「お金で良ければ」
「そうじゃなくって、危ないと思うわよー?」
「危ない?」

眉根を寄せた俺に、その人は名刺ケースから一枚の名刺を取り出した。

「深山さんってゆーんだけど、ユリちゃんこの人と付き合ってたの」
「藤極…会?」
「裏稼業の人ねー。早い話、ヤクザってこと」
「あぁ…」

受け取った名刺を、ペタリと寄り添った聖奈に見せる。そして、腕の中の美緒と交換した。

「わかるか?」
「幹部って書いてますね」
「だな」
「おにーさまに電話してみましょうか?」
「出来れば。先に家入ってろ」
「でも…」
「いいから。美緒と荷物は俺が運ぶ」
「…わかりました」

了承の返事をしても尚、聖奈は不満げで。それを無理やり家に押し込み、退屈そうに髪に指を絡めていたその人を振り返る。

「ありがとうございます」
「その子、ボクの子?」
「ふふっ。そう見えますか?」
「やだー。小悪魔」

だから何だよ。
悪いけど、正真正銘悪魔の息子だよ。

と、そろそろ悪態を呑み込むのも辛くなってきたので、いつも通り笑って誤魔化す。この場を早々に切り上げなければ、後でグラスの一つでも投げつけられそうだ。

そんな乱暴な女に躾けた覚えはないのに。

「近いうちに、お店に伺います」
「奥さん置いてー?」
「はい。お礼をしないと」
「そっ。じゃあ待ってる」
「はい。では」

美緒を抱えたまま頭を下げ、玄関の扉を開く。荷物を車に取りに戻るよりも、先にこの場を離れた方が良い。本能がそう告げていた。
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