朝子
「姉さん……」

 私は、鏡の中の亡霊に話しかけた。

 庭の片隅に生えているある草のことを思い出したのは、そのときだ。

 ヨモギに似ているが、ヨモギではない。

 毒草だ。

 その毒がどのくらい強いのかは分からない。

 毒が大したことはなくとも、篤郎の心臓を留めることはできるかもしれない。

 随分前から、彼が心臓を患っていることは、朝子から聞いていた。

 死ぬかもしれないし、死なないかもしれない。

 どちらでも良かった。

 この、朝子の亡霊として生きる日々を打ち壊すことができるなら、何でも良かった。
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