とあるアイドルの恋愛事情 【短編集】
年上の気のいい姉ぇちゃんに惚れたのも、お前がいなきゃ仕事が頑張れないから付き合ってほしいと言い出したのも俺の方。だから、我慢するのも俺の方…なんて、そんなのは割りに合わない。

唇を噛み締めながら震える肩を抱き寄せ、そっと耳元に口付けた。

 

「俺さ、世界中の誰より理美のこと愛してると思うんだよね。だから、手放さない方がいいよ?」

 

こんな駆け引き上手っぽい台詞も、サキとの遊びの中で覚えた。何だ、結構に役に立ってんじゃん。って、そんなのは都合のいい言い訳かも。

「渉は…渉は男だから」
「男だから?」
「あたしは女…だから」
「何だよ、それ」

突然わけのわからないことを言い出す理美を腕の中から解放し、噛み締めた唇をそっと指で開く。

今まで結構な年数幼馴染として付き合ってきたけど、涙なんか理美のおばあちゃんが亡くなったと知らせを聞いた時くらいしか見たことがない。いつも泣かされるのは俺の方で、こんな弱い姿を見れることさえ珍しい。

「何?」
「会えば…離れたくなくなる」
「離れなきゃいいじゃん」
「仕事もあるし、そうはいかない。怖いの。これ以上渉を好きになって壊れていくのが」

俺のために壊れて。なんて言ったら、こいつはどんな顔をするだろう。仕事も、何もかも全部捨ててお前のためだけに生きてやる。だから俺のために壊れて。

そんなことをマジで言い出しそうな自分が怖かった。

「もっとワガママ言っちゃっていいんだけど?」
「ヤダ。あたしの方が年上だもん」
「そんなの関係ねぇし。理美のわがままなら大歓迎」

何でそんなくだらねぇことを気にしなきゃなんねぇんだろう、女って。プライドとかそんなのって、別にいらないと思うんだよね。

俺は理美のことが好きで、理美は俺のことが好き。

それでいいと思うんだよ。

「あたし、渉のことすっごく好きなの」
「俺だってすっげぇ理美のこと好きだよ」
「だったらもう他の女とフラフラ遊び歩いたりしないで」
「わかった。約束する」
「ゆびきりだよ?約束破ったらもう渉の言うことは2度と信用しないから」

それくらいの約束守ってやるよ。だって、俺男だもん。って、小指を絡め合いながらそっと口付けた。くだんねぇことでケンカしたとしても、俺は世界で一番理美を愛してるから。なんてそんなくさい台詞、もう滅多に言わないと思うけど。


そんな、とあるアイドルである俺と幼馴染の恋愛事情。
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