TIME WAR
私は渉君に向かって軽く手をひらひらさせて隣について歩く


生徒の笑い声も部活のかけ声も先生の説教も何も聞こえない廊下で唯一パタパタと私と渉君の足音だけが響く


外はまだ、明るかった。季節の変化に私は目を細める


「もし、歩がいても気を悪くしないでね?」


「何で?」


渉君は心配そうな顔で赤い空を見上げながら居ればわかるよ。できればいない方がチャコを驚かせずにすむかなといった


「そんなの、会わないとわからないよ」


私は別に驚きもしないし気を悪くするつもりもない。


お見舞いに行くのに手ブラは失礼だからと花屋で花を買った


散々、気を使わないでと言われたけど私は渉をまかした


つんっと消毒の匂いがする。渉君の背中を見ながら私は真っ白い壁を見つめた


「ここ」

重そうなドアをスライドさせて後ろの私を見る
私は少しキュッと体が引き締まる気がした


小さく失礼します。と会釈しながら入ったのにいきなり止まった渉君の背中にぶつかってあうっ!と間抜けな声をだしてしまった


「渉君?」


「渉。よく来れるよな」
渉君をよけて室内に入ると渉君にそっくりな男の子が小さな丸い椅子に座って渉君を睨んでいた


これが歩君……。


「何だ、女連れかよ兄貴がこんなになったのは渉のせいなのにお前は飄々と女つくってんだな」


横に居る渉君の手が、体が小さく震えていた。
歩君は渉君と顔は似ているけど性格はむしろ正反対だった


制服を着崩して渉君から視線を外した。
渉君と歩君は一つしか違わないらしかった


「よくお兄ちゃんにそんなこといえるね」


兄弟がいないからわからないけど兄弟って苦しいときに支えてくれるもんじゃないの?


「は?……たかが生まれた日の違いだけで兄貴面らされても困る。俺の兄貴はこの人だけだ」


渉君のお兄ちゃんは、歩君の兄貴は一体どんな人なんだろう


歩君のお兄ちゃんを見つめている瞳はどこかで見たことがあった


私は瞳を追ってベッドに横たわる人を確認する。 その人は、機械につながれていた


何でこの人はここにいるの?
少し顔色が悪くて痩せてるしぴくりとも動かないけど


「信平?……」


震える唇からその人の名前を私の声が病室に響かせた


カタンと椅子をならして驚いた顔をした歩君と目があった

「チャコ……何で名前」
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