シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
「…"笑う"か」
忌々しいという顔をして、地面に唾を吐いた久涅。
久涅を騙して誘き寄せるという悪意をもって、あえて榊の茶番の観劇者になっていたことにしよう。
久涅の悔しがる顔を見たいが為に、黄色い外套男の喜劇(コメディ)の…演出の一部を担ったのだと。
元より好意的には接していない。
テレビカメラの前に連れられたのも無理矢理だ。
そして危機に陥れられた。
今更目の前に現われた仮面男に怯えたフリをして、久涅に取り縋るのもおかしい。
してやったりと、傲慢な笑いをくれてやれ。
揺らぐな。
動じるな。
こちらの策にかかったのはお前の方だと笑ってやれ。
俺を何処ぞの見知らぬ"死に損ない"だと勝手に勘違いして、のこのこ姿現したのは、お前の方だと…最高の侮蔑をくれてやれ。
「ちっ…生意気な奴だ」
俺と同じ造りの顔が嫌悪に歪むのは、爽快であると同時に何とも複雑な気分になってしまうけれど。
しかし…不思議だ。
何でわざわざ久涅は姿を現したんだ?
俺の声に反応しただけなのか?
久遠が居ないからか?
何か…違う。
きっかけは俺の声だったのかも知れない。
掠れきった小さい声は、まだ本来の俺の声とは言えない。
確証が持てず、疑いながら出てきた可能性はあるけれど。
しかし、この視線。
先刻から感じる訝った視線は、
俺というよりも榊に強く向けられていて。
久涅から、微妙な戸惑いを感じるのは何故だ?