シンデレラに玻璃の星冠をⅡ


「…"笑う"か」


忌々しいという顔をして、地面に唾を吐いた久涅。


久涅を騙して誘き寄せるという悪意をもって、あえて榊の茶番の観劇者になっていたことにしよう。


久涅の悔しがる顔を見たいが為に、黄色い外套男の喜劇(コメディ)の…演出の一部を担ったのだと。


元より好意的には接していない。

テレビカメラの前に連れられたのも無理矢理だ。

そして危機に陥れられた。


今更目の前に現われた仮面男に怯えたフリをして、久涅に取り縋るのもおかしい。


してやったりと、傲慢な笑いをくれてやれ。


揺らぐな。

動じるな。


こちらの策にかかったのはお前の方だと笑ってやれ。


俺を何処ぞの見知らぬ"死に損ない"だと勝手に勘違いして、のこのこ姿現したのは、お前の方だと…最高の侮蔑をくれてやれ。


「ちっ…生意気な奴だ」


俺と同じ造りの顔が嫌悪に歪むのは、爽快であると同時に何とも複雑な気分になってしまうけれど。


しかし…不思議だ。


何でわざわざ久涅は姿を現したんだ?


俺の声に反応しただけなのか?

久遠が居ないからか?


何か…違う。


きっかけは俺の声だったのかも知れない。

掠れきった小さい声は、まだ本来の俺の声とは言えない。

確証が持てず、疑いながら出てきた可能性はあるけれど。


しかし、この視線。


先刻から感じる訝った視線は、

俺というよりも榊に強く向けられていて。


久涅から、微妙な戸惑いを感じるのは何故だ?


< 1,000 / 1,495 >

この作品をシェア

pagetop