シンデレラに玻璃の星冠をⅡ


過去――


何度もこうした場面を目にはした。


飛び散る真紅の飛沫。

肉を食む咀嚼音。


魚の腸のような生臭さ。

そして鉄の臭い。


この…五感に訴える臨場感。


慣れるものではない。


目を瞑って呼吸を整えることが必要で。


そして俺は、隣でカタカタ震える芹霞の手を握った。


「……凜ちゃん?」


すぐ触れられる程、至近距離に居るのにな。


「あたしは大丈夫。

久遠の横行ったら?」


完全誤解している芹霞。

俺は静かに首を横に振る。


「優しいね、凜ちゃん…」


その微笑みは変わらないものなのに。


お前の心が…遠すぎる。


お前の口から、どうして俺の名前が出ないのか。

どうして感動の涙が出ないのか。


どうして…お前が"俺"を見つけれないのか。


色々言いたいことはある。

色々訴えたいことはある。


――芹霞ちゃあああん!!


かつて俺が唾棄してきたものに、絆の拠り所を求めるなんて愚の骨頂だと思うけれど。


そうしてでもして、何かに縋らねばならぬ程、切迫感が強いんだ。

かつてない程の、嫌な予感を感じるんだ。


お前が…居なくなってしまいそうな。

俺が俺で居られなくなってしまうような。


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