シンデレラに玻璃の星冠をⅡ

汗ばんでいた身体が、突如冷えた風に晒されてひやりとする。


動けない。


ぴくりとも身体を動かすことが出来ない。


これが…"魅入られた"というものなんだろうか。


逃げなきゃと思うのに

逃げたくないと思う自分が居る。


焦慮と混乱の最中、久遠だからいいやという諦観する自分が居るのが判る。


「せり…逃げないの?」


返事すら出来ない。


喉の奥がひりついて。


YESもNOも答えられない。


目の前で久遠が、自分の上着を放るのが見えた。

白いシャツのボタンを半分外して。


いつものような扇情的な格好のまま、妖艶に笑った。


浴室には…久遠の艶気だけが充満し、息苦しくてくらくらした。


「せり…これは"同意"だとみなすぞ?」


未だ目を外せないあたしの視線を絡ませたまま、妖艶な光だけを増す久遠の瞳は、炎のように真っ赤に燃える。


激情の紅紫色。


逃げなきゃ。

逃げられない。


逃げなきゃ。

何で?


――…ちゃああん!!!


頭に響く子供の声。


泣いて泣いて、あたしを急かす。


自分だけを見てくれと泣きじゃくる。


誰の声?


まるで――

幼い頃のあたしの声のように。


久遠しか見えていなかった、久遠だけを必死に追い続けてきたあの時のあたしのように。


何で、今…こんなことになっているんだろう。
< 1,142 / 1,495 >

この作品をシェア

pagetop