シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
 
「んもう~玲くんのケチ。はあ…まあいいか~。あの女の人から、いい匂いの香水貰っちゃったし」

芹霞はようやく諦めてくれたらしい。


気づかれないよう、安堵の溜息を零す僕。


「何処かで嗅いだことがあるメジャーな匂いだけれど…薔薇の匂いって、大人になったみたいでいいね~」


芹霞が僕に向けて首元を手でぱたぱた動かしたけれど、薄い香水なのか、僕には匂いは感じられなかった。


「玲くん匂わないんだ?」


ふと…。

2ヶ月前の、香水の存在を思い出した。


あれも…僕が感じなかった…薔薇の匂いをもつもので。


まさか、ね。

あれはもう終わったことだし…。


僕は自嘲気に笑いながら、芹霞の耳元に口を近づけて囁いた。


「人工的な…香水なんてつけないでよ。僕、芹霞自身の甘い香りが好きなのに」


そう言って耳朶をかぷりと噛むと、びくんと飛び跳ねた芹霞は、顔を真っ赤にさせて、ぽかぽかと僕の胸を叩いた。


それを笑って受け止めながら、何とか気分は浮揚始めたけれど。


「これは男の人から、玲くんにってくれたよね。"楽しんで下さい"って」


どうしても御礼がしたいと…拒む僕に押し付けるような形で、手にしていた土産袋を渡し、あのカップルはそそくさと何処かへと消え去った。


「玲くんの見てもいい? ずしっとしてるけど何だろうね」


青く染まっていない一般人からなら、まず変なものは出ないとは思うけれど。

お菓子か何かだろうか。


「………」


覗き込んだ芹霞が、怪訝な顔をして固まっている。


「どうしたの?」


僕も隣から覗いて見た。



銀色。


繋がった2つの環。



暫く沈黙が続いた。



「玲くん…手錠なんて何で買ったんだろ、あのカップル」


「………」


「こんなの買って、どうするつもりだったんだろう。"楽しむ"? 警察官のコスプレ?」


芹霞が手錠を手に持って、首を傾げた。



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