シンデレラに玻璃の星冠をⅡ


「桜…」


蹲(うずくま)ったままの煌が泣きそうな声を出して私に言った。


「…やべえよ」


顔が向けられる。


熱く潤んで…揺れにいいだけ揺れ出る褐色の瞳。


煌の顔が…

赤さを通り越して黒ずんで見えた。


このまま蒸気になりそうだ。


完全KO。


それを見て…"我がフリ"を直す私。


深呼吸をしろ。

馬鹿蜜柑と同じになるな。

そうなったら末代までの恥だ。



「桜ぁ……」



もう煌はよれよれで…



「三度惚れ、しちまった…」



…重症だ。


「あいつを誰にも渡したくねえ。独占欲が…止まらねえんだよ」


そしてがくっと項垂れた。


「反則だって…。

何であいつはいつも…こっちの防波堤軽々と飛び越えて、予想外のことしでかして俺を掻き乱すんだろう。何で、こう…俺の心にクリーンヒットしちまうんだろ」


長く大きな溜息が聞こえる。


「あいつの行動1つで、俺の決死の覚悟が無効になるって何よ?

俺の犯した罪の穢れに、あいつを染めさせまいと…それが俺の責任の取り方だと、贖い方だとそう思って引こうとした必死な覚悟が…一瞬でも心から消え去るなんて。

あいつとの未来を今まで以上に切望するだなんて…

何であいつ、俺の決意を簡単に覆してしまうんだよ…」


馬鹿蜜柑。

思い悩んでヘタレ蜜柑。

ぐだぐだに思い悩んで人生を転げ落ちそうな腐れ蜜柑を見捨てておけなかった私も…大概お節介焼きだとは思うけれど。


「同じ幼馴染に三度惚れなんて…

小っ恥ずかしい以上に…何処まで惚れれば気が済むんだよ、俺。

全然諦められねえって言ってるもんじゃねえか」

私の言葉でも完全納得したわけでもなく、"苦痛"故に想いを消さずにいる…そんな理由に留まった頑固蜜柑の心は、僅か目にした芹霞さんの花嫁姿に、簡単に溶かされたらしい。


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