シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
そして僕は、三沢さんから金の万年筆を奪い取り、硬直している彼の背中に手刀を入れると――
「げほげほげほっ」
咽せるようにして三沢さんは屈み込んだ。
「助かった…息が…詰まっていて…。俺としたことが…動じてしまって…」
一時的に呼吸困難に陥っていたらしい。
「この女性は誰ですか?」
僕は死体の身元を聞いた。
「この子はAPEXで受付やってた子だ。いいか、誤解するなよ。これは正当防衛なんだ。この子が突然…やって来て」
――これ以上深く首を突っ込むな。
「いつもにこにこしている大人しい子だったのに…あの時は人が変わったように、こう…威圧的な傲慢な態度で」
傲慢。
どうしても僕は、"エディター"を彷彿するんだ。
――我々を探るな。今度は左遷ではすませないぞ。
僕はそれにひっかかりを覚えて。
「三沢さんが、今までのTX(テレビ東京)からAPEXに移ったのは、いつもの電波横取り(ジャック)が理由ではなく、何かを調べていたからですか?」
他局とは毛色が違い、どんな重大ニュースが日本を駆け巡ろうとも、特番や中継をせず、そのままアニメや、マニア向けのものを多く放映し続けてきたTX(テレビ東京)。
独自路線を貫く都市圏ローカル局は、唯一三沢さんの"やんちゃ"を黙認し、したいようにさせてきた。
過去幾度かは、番組が独占中継に切り替わることがあったが、それは三沢さんの仕業で…結果、伝説に残る程の高視聴率を打ち出した。
独特な番組編成は、三沢さんの趣味によるものが多いくらい、TXにおける三沢さんの扱いは特別なもので、彼は居心地よかった局のはず。