シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
 
そして僕は、三沢さんから金の万年筆を奪い取り、硬直している彼の背中に手刀を入れると――


「げほげほげほっ」


咽せるようにして三沢さんは屈み込んだ。


「助かった…息が…詰まっていて…。俺としたことが…動じてしまって…」


一時的に呼吸困難に陥っていたらしい。


「この女性は誰ですか?」


僕は死体の身元を聞いた。


「この子はAPEXで受付やってた子だ。いいか、誤解するなよ。これは正当防衛なんだ。この子が突然…やって来て」


――これ以上深く首を突っ込むな。


「いつもにこにこしている大人しい子だったのに…あの時は人が変わったように、こう…威圧的な傲慢な態度で」


傲慢。


どうしても僕は、"エディター"を彷彿するんだ。



――我々を探るな。今度は左遷ではすませないぞ。


僕はそれにひっかかりを覚えて。


「三沢さんが、今までのTX(テレビ東京)からAPEXに移ったのは、いつもの電波横取り(ジャック)が理由ではなく、何かを調べていたからですか?」

他局とは毛色が違い、どんな重大ニュースが日本を駆け巡ろうとも、特番や中継をせず、そのままアニメや、マニア向けのものを多く放映し続けてきたTX(テレビ東京)。


独自路線を貫く都市圏ローカル局は、唯一三沢さんの"やんちゃ"を黙認し、したいようにさせてきた。


過去幾度かは、番組が独占中継に切り替わることがあったが、それは三沢さんの仕業で…結果、伝説に残る程の高視聴率を打ち出した。


独特な番組編成は、三沢さんの趣味によるものが多いくらい、TXにおける三沢さんの扱いは特別なもので、彼は居心地よかった局のはず。
< 647 / 1,495 >

この作品をシェア

pagetop