シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
 
そう――

話し出したのは、藍鉄色の瞳をもつ15歳の少年。


同色の短めの髪を掻き毟るようにて、若武者のような凛々しい顔を苦渋に歪ませる。


「なんと…。屍体が上がったのなら、完全に絶望的じゃないか」


そう、辛そうに男調の声を震わせたのは…腰まである長い黒髪を1つに束ねた17歳の少女。


颯爽とした物腰の美しい彼女は、頼りなげな光を顔に浮かべた。


外出禁止令が出ていた2人は、少年がかつて使用していた彼の自室でテレビを見ていた。



『紫堂財閥の後継者が病死』



それは葬式場面であり、遺族席には紫堂財閥の見慣れた男達の顔もあった。


棺の上には黒枠の遺影。


端正な顔。

通った鼻筋。

憂いの含んだ切れ長の目。



紫堂櫂という男の写真に他ならず、その縁者は悲嘆に暮れた顔をしていた。


わざとらしい程――。


そして多々集まった報道陣の前で、息子の死亡告知と同時に…紫堂財閥現当主が宣言したのは、


『次期当主は、紫堂玲とする』


彼の横に居たのは、喪に服する黒い背広を着て立つ…白皙の美青年。


鳶色の瞳。

鳶色の髪。


柔和に整えた端麗な顔に色気を滲ませ、それが本心にしろ本心ではないにしろ…穏やかな笑みを浮かべていた顔は、何処までも冷ややかで"心"が殺されたような表情を浮かべていた。


元々…"えげつない"一面を見せる男であったが、ここまでの"心"がない顔は初めて見るもので。


時折見える彼の微笑は、まるで仮面が張り付いたように…2人には思えた。


仮面と言うより不気味な能面。


3日という短期間でありながら、そこまで豹変してしまう彼を思えば…今、彼の置かれている環境が、いかに熾烈なものであるかを残酷にも告げていた。


何より翠は、自分の尊敬する偉大なる兄の…事故後の豹変を間近で見て、それに順応できないが為に…この本家から逃げ出していただけに、紫堂玲の変わり様には心が痛んだ。


だから紫堂の現況情報を仕入れたくて、箝口令が敷かれているらしい…監禁状態のこの皇城家をかけずり回り、ようやく事情通の侍従長からこっそりと情報を仕入れてきたばかりだった。


侍従長は昔からの翠の世話役であり、翠のやんちゃぶりにはほとほと困り切ってきた初老の男。


その男より、情報を提示しなければ断食して餓死すると脅して、ようやく手に入れた情報である。


餓死するのが自分というより…皇城家実力№2の兄をも持つ紫茉を道連れにする、と言って初めて効力を得たような感がしたが…あえて考えないようにした。
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