シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
「緋狭様、1つだけ。
1つだけ…そのお心を桜に教えて頂けますか?」
私は、心を決めて…緋狭様に尋ねてみた。
これから煌を捕まえるにあたって、どうしても必要なことのように思えたのだ。
「……何だ?」
多分、緋狭様なら…私が何を言い出すか判っているのだろう。
だから、反応してくれたのだと…私は思った。
「緋狭様は…煌のことを恨んでいますか? 恨んでいるからこそ…このような状況に"至らせた"のですか?」
緋狭様は…微笑んだ。
「恨んでいるのなら…記憶を奪って8年間も鍛えなどせぬわ。そこまで私は酔狂ではない」
それだけでいい。
それだけで十分だ。
だけど恐らく緋狭様は、その言葉を煌には告げまい。
それは師の矜持故のことか、それとも別の理由があるからなのか。
私は…告げられない事実があるのだと思う。
だからこそ――
私は、緋狭様に助けられたのだ。
私は――
緋狭様の思いをも託されたのだ。
そう思う。
緋狭様は…決して煌を見捨ててはいない。
「桜。いつものあの馬鹿犬だと思うな。あいつは…特殊仕様なのだ」
緋狭様は遠い目をされた。
「数字持ちの実力は半端ではない。訓練対象の想定は…五皇だった。『暁の狂犬』…それは強ち嘘ではなく、あいつがBR002…完全に制裁者(アリス)化しているのであれば、その異名の意味が判るであろう。本来なら私がまたボコボコにして力で捻じ伏せて、元に戻すのがいいのであろうが…」
それは出来ないのだ、と緋狭様は薄く笑った。
緋狭様にとって"元に戻す"とは、馬鹿犬に戻すということで。
そう、それだけが…私達にとっての真実。
それ以外の煌など、私達にはいらない。
これは私の抱える矛盾だ。
馬鹿な煌が嫌で仕方が無いのに、わざわざ馬鹿に戻す為に私は行く。
そんな私の行動は愚行この上なく、もうこうなれば何が馬鹿で何が馬鹿ではないのか、その線引きが曖昧でうんざりとした気分になってくる。
それでも――
馬鹿だと自覚しながらも、それでも愚行をやめない私。
それが当然だと思う私自身を――嫌だとは思わなかった。
所詮、同じ穴の狢(ムジナ)か。
そう思えば笑えてくるけれど。