シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
 

「緋狭様、1つだけ。

1つだけ…そのお心を桜に教えて頂けますか?」


私は、心を決めて…緋狭様に尋ねてみた。

これから煌を捕まえるにあたって、どうしても必要なことのように思えたのだ。


「……何だ?」


多分、緋狭様なら…私が何を言い出すか判っているのだろう。

だから、反応してくれたのだと…私は思った。


「緋狭様は…煌のことを恨んでいますか? 恨んでいるからこそ…このような状況に"至らせた"のですか?」


緋狭様は…微笑んだ。


「恨んでいるのなら…記憶を奪って8年間も鍛えなどせぬわ。そこまで私は酔狂ではない」


それだけでいい。

それだけで十分だ。


だけど恐らく緋狭様は、その言葉を煌には告げまい。

それは師の矜持故のことか、それとも別の理由があるからなのか。


私は…告げられない事実があるのだと思う。


だからこそ――

私は、緋狭様に助けられたのだ。


私は――

緋狭様の思いをも託されたのだ。


そう思う。


緋狭様は…決して煌を見捨ててはいない。



「桜。いつものあの馬鹿犬だと思うな。あいつは…特殊仕様なのだ」


緋狭様は遠い目をされた。


「数字持ちの実力は半端ではない。訓練対象の想定は…五皇だった。『暁の狂犬』…それは強ち嘘ではなく、あいつがBR002…完全に制裁者(アリス)化しているのであれば、その異名の意味が判るであろう。本来なら私がまたボコボコにして力で捻じ伏せて、元に戻すのがいいのであろうが…」


それは出来ないのだ、と緋狭様は薄く笑った。


緋狭様にとって"元に戻す"とは、馬鹿犬に戻すということで。


そう、それだけが…私達にとっての真実。


それ以外の煌など、私達にはいらない。


これは私の抱える矛盾だ。


馬鹿な煌が嫌で仕方が無いのに、わざわざ馬鹿に戻す為に私は行く。

そんな私の行動は愚行この上なく、もうこうなれば何が馬鹿で何が馬鹿ではないのか、その線引きが曖昧でうんざりとした気分になってくる。


それでも――

馬鹿だと自覚しながらも、それでも愚行をやめない私。


それが当然だと思う私自身を――嫌だとは思わなかった。


所詮、同じ穴の狢(ムジナ)か。


そう思えば笑えてくるけれど。
< 79 / 1,495 >

この作品をシェア

pagetop