シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
 


「いえ、緋狭様。これは桜の務めです。手のかかる…イラつくばかりの馬鹿蜜柑の面倒は…いままで散々見てきました。もう慣れました。

どんなに駄犬でどんなに馬鹿犬でどんなに発情犬で…そしてどんなに狂犬であろうとも…桜は飼い主には噛み付かせません。

所詮…犬は犬です」


「はははははは」


緋狭様はひとしきり笑った。


「……あのさあ」


「いいか、"あれ"の効力は持続しない。持続時間を考え、使う時期を間違えるな。間違えれば…"あれ"はただの"ガラクタ"だ」

「はい、緋狭様」


「ねえねえ……」


「私は表立てぬ身。今は坊の"死"が目晦ましと化したおかげで、こうしてお前に接触できるが…これは仮初、今ひとときのもの。

この先、状況は更に悪化する。それまでに…きちんと体制を整えよ」

「はい、緋狭様」


「ねえもうそろそろさ……」


視界に映る、目障りな青色。


「俺も仲間に入れようよ?」


今まで見ないフリをしていたら、今度は音声付だった。


「黙れ、アオ。桜は私の弟子。お前はただの他人だ」


ぴしゃりと、緋狭様は氷皇に言い放つ。



「酷いなあ、アカは。サクラチャンも~。俺だってカイクン見逃して、サクラチャンも助けたのに、サクラチャンはアカばっかり~。むううう~」


故意的に――

その存在をないものとしていたのに、やはりこの青色は存在感が大きく。


"むううう"


胡散臭さに輪をかけて、ただ気持ち悪いばかりだ。


「アオ。無表情の桜に、そこまで顔を歪ませられるのは、お前くらいなものだ。やめろ、その"ぶりっ子"は」


「あはははは~。"ぶりっ子"なんて、俺達…年がバレバレだよ、アカ~」


「私はお前ほど年を食ってない。一緒にするな」


年齢から何から不明なこの2人。

緋狭様は…氷皇より年下なのか。


そう言われれば当然のようにも思えるし、意外と言えば意外。
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