シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
ポルシェは首都高を快速している。
かなりの速度を上げているらしいが、振動は伝わってこない。
きっとそれは高級車故の特質なんだろう。
首都高に車なんて殆どない。
流れる景色は…照明以外は闇のようで。
この車がどんなに速度をあげようと、警察が追ってくる気配もねえ。
静か過ぎた。
ただ…ヘリが巡回しているのは見える。
「妖しげな黒い塔が出現したというのに、騒ぎになってないな」
小猿が、もぐもぐ口を動かしながら言った。
助手席を覗いて見れば、朱貴から貰った"きび団子"を食っている。
ああ、あれは七瀬から貰って、餓死寸前の小猿を救った奇跡の食料。
俺と共に聴覚にダメージを受けていた小猿のほっぺは、何だかつやつやしてきたような。
凄く…気になる。
「あれだけ震動と轟音たてていて、気づかないわけ…この馬鹿蜜柑!!! いい歳して、"きび団子"如きを取り合うな!!!」
桜に殴られた。
ちょっとだけ…食わせて貰おうとしたのによ…。
「これは俺のパワーアップアイテムなんだ。ワンコが食べても…」
「隙ありッッ!!!」
かぷりと1口頂いた。
「あ~、ワンコ~!!!」
1口でけちけちしない。
むしゃむしゃむしゃ…。
別にどってことのねえ…
どくっ。
何だ?
どくっ。
身体が…凄く興奮してきたように、脈動を始める。
何だ、酔っ払った時のようにも似ている。
あの…妙な"無敵感"がむくむくと…。
そんな異常を桜に訴えかけようとした時。
「おい、どうした…って、ワンコ!!! 何で葉山に色目使ってるんだよ!!」
「色目なんて使うか!!! お前じゃあるまいし!!!」
「!!!!!
な、なななななな!!!」
どくっ。
どくっ。
全身が早く脈動する。
何だよ、これ…。