ショコラ~愛することが出来ない女~

甘い匂いと共に頭に蘇ってくるのはいつだって、甘いものを作りながら厳しい目でそれを見つめる人。


「……」


丁度、次に停まる駅から数分歩いたところにあの店がある。

キキィっと電車が鈍い音を立てて停まる。
アナウンスとともに開く扉に、誘われるようにひょっこり降りて、フラフラと歩く。



今更何をする気なんだろう私は。

そう思うけど、時折り無性に食べたくなる。

彼の作るケーキ。

彼から香る匂い。


辿りついた喫茶店『ショコラ』の扉には、もうクローズの札が立てられている。
けれども、窓からは灯りが漏れていて、私を誘っているかのよう。

< 2 / 292 >

この作品をシェア

pagetop