彼女の残したもの・・・
第10章 通り雨
翌朝、目を覚ますと、あやのの姿は無かった。
ドレッサーのチェアには、バスローブとバスタオルがきちんと畳まれて置かれていた。

僕は日が暮れると、昨日あやのと出会った店に向かった。

昨夜と同じ鉢巻きに赤いチョッキのボーイが、僕を見つけると「社長!毎度」と声を掛けてきた。
席に通されると同時に「しのさん、お願いします」と僕は言った。
ボーイは、眉を下げ、少し困った顔で「申し訳ありません、しのさんは昨日で辞めたんですよ、他にいい娘がいますんで、少々・・・」
僕は店を飛び出していた。

《俺はバカだ!何で住んでるとこを聞いてないんだよ》

街中を走り回ったが、会える筈もなく、気が付くと、昨夜あやのと待ち合わせした八幡様の前に立っていた。

僕は石段をフワフワと上っていた。
鳥居を潜ると、右手に見える社殿に目を止まった。

昔、あやのと雨宿りした軒下だ。

近づいてみると、そこに何かが置いてあった。
小石がひとつ、その下に紙切れが一枚。
そこには、こう短く書かれていた。

『シンゴなら、きっと見つけてくれると思った。次の隊長は君だ!がんばれ!』

僕は声を上げて泣いていた。
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