描かれた夏風
 報酬は後払いで智に貰うから、と水瀬君は付け加えた。

「報酬って」

「あ、いや、友絵さんが気にする必要はないぜ。どーせ缶ジュース一本くらいだろ。智はああ見えてケチだからな」

 水瀬君は大げさにため息をついてみせる。

 友達の頼みは断れない、お人好しな性格なのだろう。

「水瀬くんは智先輩と仲がいいんだね」

「いやいやいや、仲はこれ以上ないってくらい険悪だぜ。いつ殺し合いに発展してもおかしくねー」

 水瀬君の軽口に、私はつい笑ってしまった。

 初対面だというのに、水瀬君はとてもフレンドリーだ。

 年齢は知らないけれど、敬語を使う気になれない。

 人類みんなと仲良くなれそうな明るさと勢いのある人だ。

「でさ……事情を聞いてもいいか? 話したくないなら構わないけれど」

 私はしばらく迷ってから、校舎の方へと歩き始めた。

「ついてきて。途中で事情を話すから」

「了解ー」

 並んで歩いていると、道行く人からの視線が集まる。

 春の優秀賞で注目を集めていた時と違い、かなり気分がよかった。

「――なるほど。智のイトコは最低な先輩だな」
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