描かれた夏風

りっくん

 いつの間にかそばまで来ていた彼は、爽やかな笑顔と共に手を差し出してくる。

「やっぱり。オレ、智から頼まれて来たんだ。よろしくな」

「あ、はい。よろしくお願いします!」

 私は慌てて彼の手を握り返した。

 どうやら彼が、智先輩の友人の軽業師兼占い師らしい。

 想像とはまるで正反対で、びっくりした。

「あの、名前は?」

 私の問いに、彼は軽い口調でふざけた答えを返した。

「名乗るほどの名はないぜ」

 それは、困る。

 何て呼べばいいのか分からない。

 私はとりあえず、智先輩の真似をして訊いた。

「あの……りっくん……さん、名前プレートを交換できるって」

「ストップ。りっくんって……智がそう呼んでたのかよ? 水瀬でいいぜ。水瀬で」

 友絵さんは素直で面白いな、と彼――水瀬君は苦笑した。

 なら最初から名前を教えてくれればいいのにと思う。

「水瀬……くん、名前のプレートを交換できるって本当?」

「ああ、他にも色々できるぜ。何でも一つ、友絵さんが望むことを命令してくれよな」
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