描かれた夏風
「――あれ? 先輩、それって」

 智先輩は手に持った袋から取り出したところだった。

 透明のパックごしに見える白くて艶やかなパン生地は、もしかして。

 私はまさかと思い訊いてみる。

「ん? ああ、これ。購買で売ってる、水曜日限定プレミアム夕張メロンパンだよ」

 私は驚きのあまり手に持ったお箸を落としかけた。

「な、なんでこんなにのんびりした智先輩がそんなの買えるんですか!」

 ――伝説の水曜日限定プレミアム夕張メロンパン。

 十個限定で販売されるそれは、購買での闘争に打ち勝った英雄のみが得られる栄光だ。

 私も一度買おうと挑戦したことがある。けれどダメダメだった。

 鬼気迫る生徒たちの熱気で、購買の前にたどり着くことすらできなかった。

「食べ物を得るために戦うのには慣れてるからねー。おいしいって噂だから、これ一回食べてみたかったんだ」

 智先輩は相変わらずの笑顔を絶やさずに平然と言う。

「すごい……うらやましいです。袋の上からでいいので、記念に触らせてもらっていいですか?」

「確かにレアではあるけど……そんなに価値があるの? これ」
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