描かれた夏風
 悪意に満ちた視線や、誹謗中傷の言葉たち。

 智先輩と出会って以来、短いお昼休みの間だけはそういう嫌なものを忘れていられた。

 私は胸の鼓動を高まらせて、ざわめく校内を早歩きで抜けていく。

 校舎の角を曲がると、仔猫――ルカがちまちまと走り寄ってきた。

 私はしゃがみこむと、右手を伸ばしてルカの頭をなでてやる。

 そうしていると、後ろからいつもの呑気な声が聞こえてきた。

「早いね、友絵ちゃん。悔しいな、僕も授業が終わってから急いで来たのにー」

 悔しいな、と言いつつも全然悔しそうじゃない。

 智先輩のその穏やかさが、私は好きだった。

「えへへ。芸術科の教室棟の方が普通科よりも昇降口に近いんです。だから早くて当然です」

 居眠りを始めたルカを真ん中に挟み、二人並んで座る。

 私は膝の上にお弁当箱を広げた。

 袋に入れてきたルカ用のお弁当は、後に回すことにする。
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