描かれた夏風
 そういえば智先輩も同じようなことを言っていた気がする。

 校舎の中はしんと静まり返って、遠くのざわめきが静寂を引き立てていた。

「オレに連絡をとるなんて、智は嫌だっただろうな。他人のためにわざわざ嫌なことをやるなんて、智も変わったな」

 水瀬君はどこか寂しそうな表情を浮かべて笑んだ。

(嫌……? 仲悪いって、もしかしたら本当なのかな)

 私は不思議に思わずにはいられなかった。

 人類みんな友達の水瀬君と、何かを嫌うことを知らないような智先輩。

 嫌い、なんて感情がどうして生まれることがあるだろう。

「……なんか、うまく言えないけど驚いた。友絵さんのことが相当好きなんだな、あいつ」

「え? ええっと」

 私が答えに困っていると、水瀬君は心の底から嬉しそうに笑った。

「智はあんな風にマイペースで器用貧乏だけど、いいヤツだよ。オレが保障する。これからも仲良くしてやってくれよな」

 何かを勘違いされているようだ。

 どう答えればいいか迷った。

 適当な言葉が見つからなくて、私は結局コクリと小さく頷く。
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