描かれた夏風
(仲良くって言っても……私は智先輩に好かれていないから、無理だよ)

 そう思うけれど、満足そうな水瀬君を見ると何も言えなかった。

 そんな風に話していると、やがて一つの教室にたどり着く。

「ここは?」

「芸術科の第一絵画倉庫だよ。……あ、鍵」

 扉を引こうとするが、壁のように堅くて動かなかった。

 そういえば防犯のため、使用しない教室の鍵は締め切られている。

「ちょっとどいてみ」

 水瀬君が扉の鍵のところに手をかざした。

「『開錠』」

 静かなつぶやきと共に、ガチャリという金属音がなる。

 水瀬君はいたずらっ子のような笑みを見せた。

「一秒ピッキング、完了。今見たことは、絶対に内緒な」

「すごい……軽業師で占い師で、泥棒もできるんだ」

 私は心の底から驚く。すごいことを平然とやるものだ。

 世界にはいろいろな人間がいるのだな、と思った。

 中に入ると、すぐに扉を閉める。

 こうすれば誰も私たちが侵入していることに気づかないだろう。

「なんだ、この部屋……狭いな」
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