描かれた夏風
 さっきの水瀬君の言葉からして、憎い敵、だとはとても思えなかった。

「――最初さ、無二の親友の立場としては、智の彼女が嫌な女だったらどうしようかと思ってた」

「え……?」

「思ってたけど、友絵さんみたいに良い子でよかった。安心したぜ」

 水瀬君の言葉に、私は全力で首を振って否定した。

「ち、違います! 彼女違います!」

「ん? まだ付き合ってないんだ?」

 きょとんとした顔で水瀬君が訊いてくる。

 私は慌てふためいて話題を逸らそうとした。

 この会話の方向は、私にとってマズすぎる。

「でも、水瀬君みたいな親友がいて、智先輩は本当に幸せですねっ」

 私が言うと、水瀬君は寂しそうな微笑を浮かべた。

「そうでもないぜ……智から聞いてるかな? アイツの両親はオレを守って死んだんだ」

 いきなりの重たい話に、私は焦ってしまう。

 遠くの方で聞こえたざわめきが、耳の奥にこだました。

(えっと)

 何と言っていいかわからず、隣を歩く水瀬君の横顔をうかがう。

 どうしてこう、気まずい方向に話題を持っていってしまうのだろう。
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