描かれた夏風
「は?」

「交換したよ、絵」

 困惑する私を前に、水瀬君はあっさりと言いきった。

(交換って……今の一瞬で?)

 私の目の前にいるのは、とてもすごい人なのだろう。

「さあて……一体全体どうなるかな? これから」

 状況を楽しむように笑いながら、水瀬君は歩きだした。

(そうだ、講堂を見に行かなきゃ)

 アスカ先輩や難波先生の反応も確認したい。

 みんながどんな態度を示すのか、怖くて不安だった。

「――大丈夫だよ」

 私の思考を見透かしたかのように、水瀬君は微笑んでくれる。

「友絵さんの思いはきっと通じるよ。だから大丈夫だ」

 根拠のない言葉なのに、不思議と勇気づけられた。

 水瀬君は初めてのはずの校舎を迷うことなく進んでいく。

 この学校に初めて来たわけではないのかもしれない。

「水瀬君は智先輩とどういう知り合いなんですか?」

 興味が湧いたので訊いてみた。

 智先輩のこととなると途端に好奇心がわいてくる自分が可笑しい。

「幼なじみで親友で、憎い敵。中学の頃までは何でも分かり合えて、家族や兄弟みたいな存在だったな」
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