描かれた夏風
「先輩? 年上? いいな、私も彼氏ほしい」
「私もーっ」
「こら、真由はアスカ先輩一筋なんでしょうが」
笑いがこぼれる和やかな会話を背に、私は廊下をまっすぐ歩いた。
今日の朝、台所を破壊しながら作ったお弁当。味は知らないけれど、気持ちは確かにこもっている。
(喜んでもらえるかな……?)
アスカ先輩から、智先輩が自分でお弁当を作っていることを聞いたのだ。
預かってもらっている家に迷惑をかけまいと、たまにアスカ先輩やアスカ先輩の弟の分まで作るらしい。
毎日それでは大変だろう。
私が差し入れを持って来ますと言えば、智先輩はとても嬉しそうに笑ってくれた。
――うん、期待してるよ。
校舎の外に出ると、澄んだ空気が頬を優しくなでていく。
今日の空は、いつになく高かった。
私は久しぶりに空を見仰ぐ。
澄み切った青の上にのせられた、水彩絵の具の白色。
ハッとして、目をしばたかせた。
錯覚だろうか、重なり合った筋雲が仔猫の形に見えたのだ。
「――ルカ?」
思わずつぶやいてしまった。
青空の吐息が、木々を揺らして吹き抜ける。
その風の中に混じって、みー、と微かな仔猫の鳴き声が聞こえた気がした。
「私もーっ」
「こら、真由はアスカ先輩一筋なんでしょうが」
笑いがこぼれる和やかな会話を背に、私は廊下をまっすぐ歩いた。
今日の朝、台所を破壊しながら作ったお弁当。味は知らないけれど、気持ちは確かにこもっている。
(喜んでもらえるかな……?)
アスカ先輩から、智先輩が自分でお弁当を作っていることを聞いたのだ。
預かってもらっている家に迷惑をかけまいと、たまにアスカ先輩やアスカ先輩の弟の分まで作るらしい。
毎日それでは大変だろう。
私が差し入れを持って来ますと言えば、智先輩はとても嬉しそうに笑ってくれた。
――うん、期待してるよ。
校舎の外に出ると、澄んだ空気が頬を優しくなでていく。
今日の空は、いつになく高かった。
私は久しぶりに空を見仰ぐ。
澄み切った青の上にのせられた、水彩絵の具の白色。
ハッとして、目をしばたかせた。
錯覚だろうか、重なり合った筋雲が仔猫の形に見えたのだ。
「――ルカ?」
思わずつぶやいてしまった。
青空の吐息が、木々を揺らして吹き抜ける。
その風の中に混じって、みー、と微かな仔猫の鳴き声が聞こえた気がした。