描かれた夏風
「先輩? 年上? いいな、私も彼氏ほしい」

「私もーっ」

「こら、真由はアスカ先輩一筋なんでしょうが」

 笑いがこぼれる和やかな会話を背に、私は廊下をまっすぐ歩いた。

 今日の朝、台所を破壊しながら作ったお弁当。味は知らないけれど、気持ちは確かにこもっている。

(喜んでもらえるかな……?)

 アスカ先輩から、智先輩が自分でお弁当を作っていることを聞いたのだ。

 預かってもらっている家に迷惑をかけまいと、たまにアスカ先輩やアスカ先輩の弟の分まで作るらしい。

 毎日それでは大変だろう。

 私が差し入れを持って来ますと言えば、智先輩はとても嬉しそうに笑ってくれた。

 ――うん、期待してるよ。


 校舎の外に出ると、澄んだ空気が頬を優しくなでていく。

 今日の空は、いつになく高かった。

 私は久しぶりに空を見仰ぐ。

 澄み切った青の上にのせられた、水彩絵の具の白色。

 ハッとして、目をしばたかせた。

 錯覚だろうか、重なり合った筋雲が仔猫の形に見えたのだ。

「――ルカ?」

 思わずつぶやいてしまった。

 青空の吐息が、木々を揺らして吹き抜ける。

 その風の中に混じって、みー、と微かな仔猫の鳴き声が聞こえた気がした。
< 134 / 134 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:3

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

公開作品はありません

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop